• 各種ダウンロード
  • メルマガ配信登録
  • お問い合わせ

HOME > ブログ > 《特別対談》グローバルサウス、今後の国際情勢について聞く

《特別対談》グローバルサウス、今後の国際情勢について聞く

  • LINEで送る
  • このエントリーをはてなブックマークに追加

石井正文先生をお迎えして
グローバルサウスとはなにか、
そして2024年、今後の国際情勢をお聞きしました


5月30日、元・外交官の石井正文学習院大学特別客員教授を講師に迎え、
役員を対象にした国際情勢を学ぶ勉強会を本社で開催。
そして、その後、場所を変え、当社会長材木正己と社長荒賀誠と
会食を兼ねての鼎談が行われました。
今号はそれら二つを合わせて再編集してお送りします。



「グローバルサウス」を
十把ひとからげで括ってはいけない

材木:石井さんは外務省ご出身で、外務大臣秘書官や国際法局長を歴任。ベルギー、イギリスやアメリカ、中東などにも駐在し、最後はインドネシア大使も務められた、いわば、「外交のプロ」でいらっしゃいます。本日は私どもの「勉強会」の講師としてわざわざ綾部まで足をお運びいただき、ありがとうございます。

石井:こちらこそありがとうございます。グローバル展開をされている企業にとって、やはり、いま目の前で世界で起こっていることの背景を知ったり、10年、20年先を見据えて戦略を立てられることはとても大切なことですね。私の話がお役に立てるのならうれしいことです。

荒賀:かつては「BRICS(ブリックス)」と呼ばれるブラジル、ロシア、インド、中国、そして南アフリカが成長著しい国として注目されていましたが、南アフリカに勢いがなくなってしまった。いまは「Global South グローバルサウス」に注目しなければならない時代。「グローバルサウス」というと、アフリカ、ラテンアメリカ、アジアの新興国・途上国など「第3世界」と捉えがちですが、じつは十把ひとからげで括られるものではない、それぞれの国の特徴であったり、思惑・利害関係をしっかり理解していくということ、個別の国の異なる事情について、テーラーメイド的な協力関係を築くことが大切だというお話を、石井さんには、ほんとうにわかりやすく解説いただきました。




石井:BRICSの首脳会合(第15回)が昨年8月に南アフリカで開催され、あらたにアルゼンチン(後に参加を取り下げ)、サウジアラビア、アラブ首長国連邦、イラン、エジプト、エチオピアの6か国が加わりました。しかしBRICSの拡大自体は注視する必要はあっても過度に警戒する必要はないと思います。一方、グローバルサウスですが、たとえばウクライナ問題の対応を見てもわかります。ロシアへ向けた国連非難決議では賛成が参加国193のなかで141、反対が5、日和見(棄権35、無投票12)。ロシアが重大な国際ルール違反をしたにも関わらず、立場をはっきりさせない国が相当数あるということです。欧米にも中露のどちらにも与さない国、あるいは立場をはっきりさせない国があり、それらの国が経済的にも政治的にも影響を与えるようになってきた。そのときどきの状況でそれぞれに合わせた対応が必要となってくるわけです。〈うるさ型15人衆〉という表現を使いましたが(下記参照)、日本との関係性のなかで、まずは15の国の特徴を挙げました。

荒賀:この15か国のなかで当社日東精工グループと関わりのあるひとつがインドです。私どもは今般、現地のVulcan Forge Private Limited(バルカン・フォージ・プライベイト・リミテッド)と株式譲渡契約を締結し、Vulcan Forge Private Limitedおよびその子会社である Vulcan Cold Forge Private Limited(バルカン・コールド・フォージ・プライベイト・リミテッド)を100%子会社化しました。私どものねじは冷間圧造でつくっているのですが、この会社は同じ冷間圧造でも違う技術をもっている会社です。互いの販路活用や技術力の共有など事業のシナジー効果が発揮できると考えたわけです。経済成長が大いに期待されるインド市場に自動車・二輪車の分野で幅広く市場参入していきたいと思っています。インドはGDPも2025年には日本を抜き3位になる、勢いのある国のひとつですね。

石井:インドへと出て行かれることはとても良いことだと思います。人口は世界第一であるし、2040年以降も老齢化がはじまらず、国力、潜在力が絶大。どこの国とも同盟せず、常に自己の国益を再優先できる国です。ただ、インド側から見たとき、日本への対応が変わってきているということも忘れないようにしたいですね。一つの例を挙げるなら、毎年、インドのグジャラート(モディ首相の出身地)で開催される見本市があり、各国からいろいろな企業が出展しています。日本からも多数出展し、日本のパビリオンはどの国よりも力をかけて立派なものにしていることもあり、モディ首相がこの見本市を視察するときは必ず日本館に立ち寄って、企業の人とも面談し記念撮影をしていたのです。しかし今年は打診をしてもなかなか返事がなく、結局、「モディ首相はどこの国のパビリオンにも立ち寄りません」という通達があった。それでも駐在インド日本大使が押しの強い人だったので、日本館の前を通られたときに、挨拶をしながら半ば強引にお連れご案内したのですが、つまりは「日本をこれまでのように特別扱いしませんよ」というメッセージというわけです。

材木:モディ首相は日本通で、なかでも京都がお好きだとお聞きしているのですが、やはりインドはカースト制度が残っている国ですから、ランキングの上か下かが大事だということなのでしょうか?自分たちが上になるのが時間の問題だとなると……

石井:それも少しはあるかもしれませんが、注目するというレベルではなく、注力するというぐらいの考えをもって進めなければということだろうと思います。「いいものがありますね」と注目するだけでなく、実際、御社のようにお金を投資して、いっしょになってつくっていく、注力する姿勢が大事です。そしてこれはインドだけでなく、これからの東南アジアとの関係も同じでしょう。日本とASEAN(東南アジア諸国連合)全体のGDP比でいえば、かつてはASEAN全部足しても日本が圧倒していたわけですが、それが、いまは半分、そして来年には逆転されるところまで来ています。インドネシアは2045年が建国100年にあたりますが、これに向かって先進国入りを目指していて、もしそうなると日本はインドネシアにも抜かれていくことになります。これまではアメリカが1位で中国が2位、日本は3位で、それも1位と3位の両方を足せば、2位の中国を凌駕できるということで意味があったわけですが、5位、6位では存在感が示せなくなってしまいます。日本はアジアではリーダーだったのが、one of themになってきたわけです。



材木:かつて「ジャパンアズナンバーワン」と呼ばれた時代もあります。そのころから見て、いまは失われた40年、50年などとも言われますが、言葉を返せば、いまが底、これからどんどん上向いていけるのだと、捉えられると思っています。私どもは、今回のインドを含め、現在9か国にネットワークを広げています。これは自己評価なので、ほんとうに正解かどうかはわからないのですが、当社が拠点を置く国の中でもその国の財閥と手を組んでいる現地法人があります。自分たちだけが儲ける、良い思いをするのではなく、皆に喜んでもらう。がんばってもらったら、がんばった分は報われる、私どもはこれを「絆経営」「幸せ経営」と言っているのですが、こういう経営姿勢をやっていることでうまくいっていると思います。

石井:素晴らしいですね。もちろん、そのためには相手の信頼を得ないといけないわけですね。外交でもそうですが、交渉事を進めるには互いに譲り合うといいますか、落としどころがあります。「ここまでは」というところを事前に情報を得ていると話がまとめやすいのですが、やはり、それは信頼関係が大きいです。

荒賀:相手のこと、その国のやり方をよく理解するということでもありますね。インドの方とお話をしていて「それじゃ、明日」とお約束しても、明日でないことも多い。最初は戸惑いましたが、「明日」は「明日以降のこと」というように解釈しています。

石井:アラブ圏では「明日」はボクラと言いますが、同じ意味で更に、「インシャアッラー」という言葉もプラスします。これはアラー(神)の思し召しのままにということです。明日とお約束するけれど、神さましだいでは変わることもあるという保険をつけるわけですね。

材木:私はインドネシアとタイに駐在したことがあります。もう何十年も前のことですが、警察官にここでは言葉にできないような「え!」とびっくりする提案をされたことがありますし、これは会社での話ですが、社長車の現地人の運転手に会食の席で長時間待たせると悪いと思ったので「もう引き上げてもいいよ」と帰宅させることが何度か続いたら、「今度の社長は仕事をさせてくれない」とクレームが入った。こちらは早く帰れば家族との時間がもてるだろうと、良かれと思ったことが、お金を稼がせてくれないという逆効果になったわけです。やはり、その国のことをしっかり知る必要がありますね。タイに関してはじつは最近、文部大臣とお話をする機会があったのですが、タイの国立大学などでは、アメリカやヨーロッパ、世界中から優秀な学者、研究者を呼び寄せているそうです。人財づくりにどんどん力を入れているのだというお話でした。いまは優秀な人財がどんどん育っているようです。

石井:それに少し関連しますが、第三世代問題というのもありまして……かつて日本はアジアではリーダーであり、ODAなどもあり、戦後第一世代の親が第二世代の子供に何かあったら日本を頼れ、日本を見習えといってきたわけですが、いまおっしゃったような第三世代の若者はそういう縛りがまったくない。若い優秀な人も多い。そういう人たちがビジネス相手として、あるいは研修生としてやってきたとき、「若造だ」と舐めた態度、丁寧に対応をせずおろそかにする、上から見下すようなことをすると、すぐにとんでもないしっぺ返しを食うよと、よく言っているのです。



無関心ではいけない。
世界へ目を向ける大切さ

荒賀:石井先生に今日の勉強会では2024年、今年度の世界情勢についてもお話いただきました。いまはウクライナ問題もあれば、中東イスラエルとパレスチナ・ガザの問題もある。ミャンマーもあれば、北朝鮮の脅威もあります、いろいろと気にかけないといけないことが多いですね。

石井:2024年、これからというと、まずはアメリカの大統領選がありますね。現在の状況ではトランプさんが優位ですが、トランプさんが大統領になれば、MMGA(Make me great again)、トランプ劇場がはじまることは必至で、ウクライナへの支援も打ち切りになるかもしれせん。対中関係、対北朝鮮関係の動きは各国への影響を与えます。ただ、ウクライナ問題についてもパレスチナの問題にしても停戦させなければいけないわけで、アメリカというよりも、全世界が知恵を絞って着地点を見いだす必要があるわけです。オバマ大統領が「アメリカは世界の警察官を辞める」と言ったのが2013年、それから10年経ち、アメリカの世論も半分はそれでいいとなっています。かつてはアメリカ単独で課題解決する時代でしたが、いまは各国負担、調整して課題を解決していく時代。そして、そのためにはなにか問題があった場合の制裁はかえって分裂を増長させてしまいます。報酬レジーム(良い行動に報いる)といったことが重要になってくると思います。トランプさんは逆風にあらがうことはしないということを理解し、日本が助かる方向の風を吹かせていくという発想が必要でしょう。

材木:当社は台湾にもそして中国にも拠点をおいているのですが、台湾有事、きな臭くなっているようですが……

石井:台湾有事は、私は当面は起こらないと思っています。当事者の中国も現況、起こしたいとは思っていない。要するにいま、ことを起こしても、メリット・デメリットを比較すれば、デメリットのほうが多いからです。中国にそういうふうに思わせるということが重要で、それが外交です。ただ、アメリカとのパワーバランスが崩れれば、今後、起こり得る話でもあるわけで、少しでも兆候を感じたら、すぐに引き上げるということが賢明だと思います。

荒賀:こんなふうに国際情勢を学ぶことができてとてもありがたいと思います。グローバルに展開している私どもにとっては、リスク回避にもつながるわけです。ただ、一般の人にとってはなにか他人事といいますか、政治家や官僚の方々におまかせすることであって、自分たちがなんとかできるものではないかと、そんなふうに考えてしまうのではと思います。石井先生は学習院大学でも講義をされているわけですが、学生たちは先生のお話にどんな反応をされているのでしょう。

石井:打てば響くというような感じではなく、自分事として十分に捉えられているかは少し疑問ですが、課題を出せばしっかり応えてくる。いまのこの問題が、じつは10年後、20年後の君たちの世代の問題になる、つながっているということはしっかり伝えていきたいと思っています。来年は国連ができて80周年の節目の年ですが、世界に目を向ける大切さをわかってもらいたいと……。

材木:つながっているということといえば、綾部市は少しおもしろいところで、人口3万少ししかいない小都市なのですが、世界連邦都市宣言第一号都市であり、中東和平プロジェクトというのも主導しています。これはイスラエルとパレスチナのそれぞれの戦争遺児を日本に招待して交流することで、憎しみの連鎖を断ち切ろうということです。そんな取り組みもしているのです。

石井:綾部駅前にバラが咲いていて、その前にモニュメントがあったので、なにかなとのぞいてみたら、イスラエルとの友好都市を記念するものだったのですが、そんな背景があったのですね。素晴らしい取り組みですね。

荒賀:ふだん、たとえば綾部の工場に勤務していると、どうしても目の前の仕事が中心になって、世界の動向への関心がなくなりがちですが、無関心であってはいけないのだと思います。ぜひ、石井先生には今後も継続して、オンラインでもいいので、国際情報をご教授いただければと思います。今日はありがとうございました。



※本ページの内容は、ニュースレター7月号にも掲載しています


  • LINEで送る
  • このエントリーをはてなブックマークに追加