あやべ出身の陶芸家・人間国宝 神農 巌さんとの特別鼎談!

あやべ出身の陶芸家・人間国宝 神農 巌さん
そして前綾部市長 山崎 善也さんと
当社代表取締役社長 荒賀 誠で特別鼎談を行いました
今号は2024年に人間国宝(重要無形文化財保持者)に認定された神農巌さんと、
神農さんと同級生で前綾部市長の山崎善也さんをお招きし、
当社社長の荒賀誠との鼎談となりました。
〈工芸〉と〈工業〉との分野の違いはありますが、モノづくりという点で
大切にしなければいけないことなど多くの共通点がありました。
向かって左から山崎善也さん、神農巌さん当社代表取締役社長 荒賀誠
荒賀誠代表取締役社長(以下:荒賀) 当社が本社をおくあやべご出身、しかも自分の高校のOBに人間国宝となられた方がおられるのは、まさに郷土の誇りです。今日は神農先生と小学校からの同級生で、綾部市の前市長・山崎善也さんのお取り計らいで、お話をうかがう機会を設けていただくことができました。ありがとうございます。
山崎善也さん(以下:山崎) 神農さんはもともとお隣の福知山出身で、小学校3年のときにあやべに移ってこられた。それ以来の仲ですから60年の付き合いです。綾部中学時代はバレーボールのエースとして女の子から人気がありましたね(笑)。いわゆる代々続く陶芸家のおうち出身ということではなく、お父上は事業家。その家業を継ぐために大学の経営学科に進学されたわけですが、たまたま京都の国立博物館で中国北宋・朝鮮高麗時代の青磁の美しさに衝撃を受け、これを自分でもつくりたい、天職にしようと一念発起し新たにこの世界を目指された。ひとりで道を拓いて人間国宝にまで昇りつめられたわけです。
荒賀 先日、東京あやべ会での講演で神農先生が参加者からの質問に対し、「自身の創造性の原点は生まれ育った故郷・あやべの由良川や里山にある」とお答えになったのを聞き、とても嬉しく思いました。神農先生の作品はあやべでも鑑賞できるのでしょうか?
山崎 2作品を綾部市に寄贈いただいており、ひとつは綾部市長応接室に、そしてもうひとつは綾部市中央公民館に展示されています。2011年に日本伝統工芸展「日本工芸学会会長賞」を受賞されたときに記念で寄贈されたものです。また神農さんには2025年に綾部市民栄誉賞(第一号)を受けていただきました。
神農巌さん(以下:神農) 市長応接室にあるものは上皇皇后陛下美智子さまが皇后陛下でいらしたときに日本橋三越本店で開催された日本伝統工芸展にお出ましいただき「宮内庁お買い上げ」となった作品と同時期につくったものです。まったく同じというわけではないけれど、姉妹作品ともいえるものです。


なに、これ!という驚き、感動が
モノづくりの原点
荒賀 私ども日東精工は工業用ファスナー(ねじ)などの工業品、神農先生は工芸(芸術)作品ということで分野は違いますが、それでもモノづくりという点では共通するところもあると思います。
神農 先ほど御社製品の極小ねじを拝見し、また触らせていただきました。「え、なにこれ!」とほんとうにびっくりしました。驚きや感動、これがモノをつくる原点です。1ミリにも満たないねじですが、しっかりとねじ山が切ってあるんですね。しかも締める道具も別にある。ここまで精緻だとこれはもう美の世界。工房に持ち帰って若い人たちにも是非見せたいと思います。でも、この精緻なねじも簡単にできたものではなくて、御社のねじづくりの歴史・伝統のなかで生まれてきたものでしょう。

荒賀 ありがとうございます。私どもの人財教育本『人生の「ねじ」を巻く77の教え』のなかに「いい仕事には絶対美観がある~持つべきものは美意識」という項目があります。ほんのわずかな違いに敏感であれ、より良いもの、より美しいものにこだわれと教えています。
山崎 「美しい」という感想ひとつにしても、やはり人間国宝の発言だと重みが違いますね。そして確かに最初からこの技術があったわけではなく、失敗や試行錯誤の積み重ねの上に成り立っているわけですね。
神農 大学の経営学科で「PDCA(Plan Do Check Action )」あるいは「PDS( Plan Do See )」を学びました。これは、今も大事にしています。日東精工さんもそうだと思いますし、行政、まちづくりも同じだと思うのですが、プランを立て実行する、そしてそれを精査し検証し改善点を見出しては、さらに次の行動を起こしていく。陶芸の世界では窯に火を入れてからは〈火の神さま〉に委ねます。それでも土は、釉薬は……とそれぞれの調合加減などを模索、日々PDCAの繰り返しです。
荒賀 ほんとうにそうですね。当社も創業以来、88年間、ずっとその積み重ねです。ベースにあるものは大事にしつつもそこにとどまらない。
山崎 神農さんのお話のなかでよく出てくるのですが、千利休の「守・破・離(しゅ・は・り)」。守は 伝統的な型・技を徹底的に「守る」。破は自分に合ったより良いと思われる型を模索し試すことで、既存の型を「破る」ことができるようになる。そして離は、さらに鍛錬・修業を重ね、かつて教わった師匠の型と自分自身で見出した型の双方に精通し、いわば型から「離れ」て自在となる……これにもつながりますね。

伝統と伝承は
似て非なるもの
神農 私は伝統と伝承は違うものなんだよと若い人によくいうんです。伝承は神事だったり民話などがそうですが、しっかりそのままを伝え残していくものであり、伝統は守るだけではなく、新しいものを加えていくもの。トラディショナルというとなにか古臭いものと考える人が多いのですが、そうではなく革新的なものです。
山崎 もちろん神農さんの青磁も、2000年以上の歴史の延長線上にあるものですが、そこに堆磁(ついじ)という神農さんオリジナルの技法が加わって、新しい世界が生まれているわけですね。
荒賀 この堆磁は清水焼の製陶所で働いておられるとき、傷があるところ、欠けたところに上塗りをして修繕していくという作業の繰り返しのなかから着想されたと聞きました。ふつうだとその作業をこなしていくだけで終わるところですが……、
神農 独立してこの世界で生きていくには早くに自分のオリジナルを見つけないといけないと、常に何かを探していた結果だと思いますね。過去の名作の写しを突き詰めても、骨董商は喜ぶかもしれないけれど、そうではなく現代に生きる作家として新しい価値を見出したいと考えるようになりました。学校で基礎を学んだあと、巨匠のもとで修行する、働かせてもらうという方法もあったのですが、それだと、その師の枠を超えていくことがなかなか難しい。師匠がいればそのレールの上に乗っていればある程度の安定が保証されるわけですが、多様で高い技術や表現を身につけたいと、ひとりで進む道を選んだわけです。若かったからこそ、できたことかもしれません。


荒賀 私どもの社是を解説する『我らの道』のなかの「行動規範」に「有意注意」という言葉があります。例えば信号が青なら進めというのはわかっていても、青だからと左右確認しないで進んでいくと信号無視の車にぶつかることが起こりうる。一つひとつその意味を考え丁寧に進めていくことで視野が広がる……こういったことがもちろん信号だけでなくいろんな状況であるわけです。今の神農先生のお話はこの「有意」にもつながるように思います。もちろん、大きな覚悟となにより大きなパッションがおありになったからでしょう。
山崎 神農さんが師匠についておられたら、この若さでは人間国宝に認定されなかったかもしれないですね。上が重しになってなかなか越えられない。神農さんが独立して滋賀県の琵琶湖のほとりに窯を築かれたのが30歳のときで、でも必ずしも順風満帆というわけでもなかったでしょうし、認められ世に出るまでにはご苦労もあったでしょう。
神農 賞などをもらうようになって、そして、たまたま美智子上皇后陛下に作品をご評価いただき、宮内庁お買い上げとなったことなどで世の中の注目度が上がったわけですが、もともと人に恵まれたことは確かで、今はもう閉めておられますが、京都東山五条の老舗有名ギャラリーの息子さんと仲良くなったご縁で、そこで個展を開かせてもらい、いわゆる上客をたくさんご紹介いただき、そのお客さんのご意見やご要望を聞くことで、そこからまた新しいものが生まれてもきたわけです。
荒賀 オブジェ的なものだけでなく、お皿など日常的なものもつくられるのですね。
神農 じつは、はじめのうちはそれがメインでした。料理が主、花が主であり、お皿や花瓶は「脇」の存在です。しかし、その皿や花瓶がなかったら料理もお花も成り立たない。主役ではないけれど、なくてはならないもの。そこに自分の世界も表現していく。これは御社のねじとも同じですね。
荒賀 そしてお客様のニーズを踏まえて、結局、喜びや満足、感動を与えていくという点でも共通するものですね。神農先生の公式サイトには「『表現』は『あらわす』と言う漢字を二つ重ねて書く。ひとつ目の『表す』は技術(skill)で、もうひとつの『現わす』は想い(will)」とあり、「このskillとwillのバランスが大事」とありました。いくら高度な技術があっても、発想力、強い想いがなければ形になりません。逆にイメージがいくらあっても技術が伴わなければ、形になりません。お互いを自分の中で高めていくことが大事だと。
神農 私が大切にしている言葉に「啐琢同時(そったくどうじ)」もあります。これはもともとは卵から孵ろうと雛が内側から殻をつつくのと、親鳥がそれを外側からつついてヘルプするということで、常から制作のことが頭にあり考え続けていますと、思考が熟したときにハッとする気づきが舞い降りてきます。これをしたい(will)と閃いたり、試したいと思ったりしたときに、その技量(skill)がしっかりついているように日々鍛錬していくこと、これが私の啐琢同時だと思っています。

荒賀 常に進化されているわけですね。
神農 昔つくったもので評判がよかったものをまたつくってと要望されることもあります。
山崎 それに応えるほうが〈商売〉で考えれば効率がいいかもしれない。
神農 もちろん、作品を振り返って基本に立ち返ることはありますよ。しかし過去の自分と今の自分は違う。目指すべきものがあるので、過去のものをコピーすることはありません。
山崎 作品の素晴らしさだけでなく、こういった人間性も含め、神農さんが「人間国宝」に認定された理由がわかります。
荒賀 今日は仕事を進めていく上で、改めて肝に銘じたい貴重なお話をうかがえました。ほんとうにありがとうございました。

※本ページの内容は、ニュースレター9月号にも掲載しています



